【技術法務】プラスチック製品の品質表示法
- 本堀雷太
- 2022年2月27日
- 読了時間: 7分
それにしても、世の中には実に様々な種類のプラスチック製品が溢れていますね。
私の事務所もプラスチックを扱う「高分子化学」や「成形加工技術」を専門分野の一つとしている関係で、日々多くのプラスチックに関する案件が持ち込まれます。
プラスチックは、木材や焼き物(セラミックス)、金属などの他の素材に比べ、成形加工性に優れ、軽量で安価、そして物性・機能面で豊富なバリエーションを持つという大きなメリットを持つ素晴らしい素材です。
そのため、用途に応じ、物性や機能を勘案して目的に叶った種類のプラスチック原料が素材として選択されます。
場合によっては、複数の種類のプラスチックを組み合わせたり、他の素材と複合化した形で用いられたりもしています。
しかし、成形品によっては、素材が異なっても見た目の区別が全くつかないケースもあります。
下の写真をご覧ください。プラスチック製のコップが二つ並んでいます。

この二つのコップ、形状は同じなのですが、素材が異なります。左のコップがポリスチレン(PS)、右のコップがポリエチレンテレフタレート(PET)を成形したものです。
見た目では、まったく区別できませんよね。
プラスチックの大きな魅力は素材の多様性なのですが、成形品には様々なプラスチック原料が用いられており、種類や化学的性質が識別できない事が良くあります。
これは、ちょっとマズイんです。
例えば、リサイクル、特にマテリアルリサイクルを行う際には、素材毎に分別する事が必須で、他の素材が混じれば、再生品の物性の劣化を招く事が多々あります。
そのため、素材毎の分別が円滑に行われる様に、リサイクルマークが付与されていますよね。

但し、リサイクルマークについては、その製品が廃棄された後の分別における利便性の向上を目指して付与されるのですが、製品の購入時や使用時においても、その製品にどの様なプラスチック原料が使用され、どの様な使い方をすべきなのか知らなければならないケースというものも数多く存在します。
例えば、コンビニやスーパーでプラスチックの容器に詰められたお弁当を購入した際に、その容器のまま電子レンジで加温できるのかどうか悩む事がありませんか?
弁当容器の素材には、ポリスチレン(PS)が良く用いられていますが、これも耐熱グレードのポリスチレンを原料に用いていないと、電子レンジで加温している際に変形したり、場合によっては発火したりする恐れがあります。
つまり、一般の消費者に対して、「その製品がどの様な種類のプラスチックが用いられているのか?」、「使用上、どの様な点に注意しなければならないのか?」という事を、プラスチック製品の製造者や販売者は伝える必要があります。
仮にプラスチック製品を消費者が誤った形で使用し、事故や火災などが発生した場合、製造業者に対して「製造物責任(Product Liability)」が問われるケースもあり、製造や販売に係る事業者としては、予防的な措置として、プラスチック製品への適切な表示などの対応が必要となります。
特に一般の消費者が使用する家庭用のプラスチック製品に関しては、「家庭用品品質表示法」という法律により、その品質表示の方法や対象品目の範囲が定められています。
条文の第1条には法の目的が、第2条には表示の対象となる「家庭用品」の範囲が定義されています。

この法律は、一般消費者が製品の品質を正しく認識し、その購入に際し不測の損失を被ることのないように、事業者に家庭用品の品質に関する表示を適正に行うよう要請し、一般消費者の利益を保護することを目的に制定されました。
第2条に家庭用品の定義が記されていますが、プラスチック製品に関しては、「一般消費者が通常生活の用に供する合成樹脂加工品のうち、一般消費者がその購入に際し品質を識別することが著しく困難であり、かつ、その品質を識別することが特に必要であると認められるもの」と読み取れます。
従って、“一般消費者の目”から見て、“品質を識別する事ができる”事が必須である訳です。
この合成樹脂加工品の具体的な内容は政令で定められておりまして、現在のところ、
(1)洗面器、たらい、バケツ及び浴室用の器具
(2)かご
(3)盆
(4)水筒
(5)食事用、食卓用又は台所用の器具
(6)ポリエチレンフィルム製又はポリプロピレンフィルム製の袋
(フィルムの厚さが〇.〇五ミリメートル以下で、かつ、個装の単位が百枚未満のもの)
(7)湯たんぽ
(8)可搬型便器及び便所用の器具(固定式のものを除く)
の8種類が指定されています。
表記すべき事項については、「合成樹脂加工品品質表示規定」に定められており、下記の様な「品質に関する表示」と「付記事項」から成ります。
【品質に関する表示】
(1)原料樹脂の名称
(2)耐熱温度
(3)耐冷温度
(4)容量
(5)寸法
(6)枚数
(7)取り扱い上の注意
【付記事項】
(1)表示者名
(2)住所または電話番号
品目により、下表の様に対象となる記載事項は異なっています。

原料樹脂の表記については、以下の点に注意する必要があります。
(1)複数のプラスチック原料が混ざった状態で使用されている場合、混入割合の大きなものから表示する。
(2)複数のプラスチック樹脂異なる部位に利用されている場合は使用部位を示し、それぞれの部位についてプラスチック原料名を表示する。
(3)積層など複合成形した製品については、プラスチック原料名の後に、複合成形(積層など)品である事を表記する。
例えば、下写真にプラスチック製の漬物容器の表示例を示しますが、本体部分はポリプロピレン、フタの部分にはポリエチレンが使われています。
この場合、本体とフタそれぞれの部分について、プラスチック原料の種類と耐熱温度、耐冷温度を表記する事になります。

次に、耐熱温度についてですが、日本産業規格(JIS)の「JIS s 2029(プラスチック製食器類)」の7・4に定める「耐熱性の試験」を用いることになっています。
そして、耐熱温度は、機能の異常や著しい変形が認められた温度から10℃を引く事で算出されます。
他方、耐冷温度については、一定温度に定めた低温槽の中に合成樹脂加工品を入れて、一時間保持したのち、これを取り出し、そのまま二時間放置したときに機能の異常又は著しい変形が生じているか否かを観察することで測定されます。
そして、耐冷温度は、機能の異常や著しい変形が認められた温度から10℃を足す事で算出されます。
あと重要な事項として、「取り扱い上の注意」の表記法がありますが、基本的に以下の事項を表示する事になっています。
(1)火のそばに置かない旨。
(2)熱いなべ等をのせない旨(まな板に限る。)。
(3)レモン等柑きつ類の皮に含まれるテルペン又は油脂によって変質することがある旨(スチロール樹脂製のものに限る。)。
(4)湯を満杯にして使用する旨(湯たんぽに限る。(五)において同じ。ただし、軟質の樹脂製のものにあっては、「湯は約三分の二程度にとどめ、空気を抜いて使用すること」等材質に応じて適切な湯量の表示を行うこと。)。
(5)長時間にわたり身体に密着して使用しない旨。
(6) 手をついたり、乗ったりしない旨(浴槽ふたに限る。)。
(7)冷凍庫に入れて使用すると破裂するおそれがある旨
(冷凍庫用に耐冷設計されていないものに限る。)。
(8)冷凍する際に注意すべき事項(保冷剤を使用した容器に限る。)。
(9)電子レンジ用として使用できないものについては、電子レンジで使用できない旨、電子レンジで使用できるものについては、その使用形態、内容物に応じ注意すべき事項(台所用容器等及び皿等に限る。)。
例えば、下写真にポリスチレン製のトレーに記された品質表示の例を示しますが、「レモン等柑きつ類の皮に含まれるテルペン又は油脂によって変質することがあります。」と記載されていますね。

この様に、一般の消費者が、プラスチック製品にどの様な種類のプラスチック原料が使用され、どの様な点に注意して使えばよいのかという点を表示するのが品質表示という事になります。
プラスチック製品は非常に便利な反面、誤った使い方をすると製品事故に繋がる恐れがあります。
プラスチックを専門とする事業者の皆様は、消費者の安全ため、適切な表示に努める必要があると思います。
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